【論文出版】生活保護世帯の子どもにテーラーメイド型支援を効果的な支援システム開発に向けた新手法を確立(非常勤研究員 上野)

貧困は、子どもの健康や社会生活に悪影響を及ぼします。生活保護世帯の子どもたちは、健康や生活に関して多様なニーズを抱えており、個々の生活背景に応じた支援が求められています。また、効果的な支援方法も個々の生活背景によって異なります。上野恵子助教(当時)らの研究グループは、生活保護世帯の子どもたちを生活背景に応じて類型化するために、1,275名が回答した質問紙調査から得た情報を用いて、機械学習の手法(ソフトクラスタリング)で生活背景の異なる小集団(セグメント)に類型化しました。次に、この分析で得られた結果をもとに、複雑な支援ニーズを持つ子どもたちを支援する専門家(NPO職員、児童精神科医、保健師、スクールカウンセラーなど。以下、専門家)へのインタビュー調査を実施し、各セグメントの生活背景や特性(人物像)を把握するとともに、それぞれに適した健康・生活支援策について意見を収集しました。その結果、特徴的なセグメントが抽出され、専門家が納得する5つのセグメントが得られました。さらに、専門家へのインタビュー調査の結果から、身体的健康にとどまらず、社会的健康(周囲の人々と関わり合いがあること、他者から必要とされることなど)・精神的健康を支える多様な支援策が示唆されました。本研究の成果をもとに、現在、各セグメントに適した支援プランの提示を行うテーラーメイド型支援システムの開発を進めています。

本成果は、2025年4月16日に「International Journal for Equity in Health」にオンライン掲載されました。

書籍情報:Ueno K, Nishioka D, Shiho K, Naoki K. A data-driven approach to detect support strategies for children living in households receiving public assistance in Japan: a mixed methods study to establish tailor-made health and welfare care. Int J Equity Health. 2025;24:103.

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研究成果がJST HP、日本経済新聞(オンライン)で公開されました。

 

【出版】BRAIN and NERVE「孤立・孤独に関する疫学的知見」(客員研究員 荒川・教授 近藤)

横浜市立大学医学部公衆衛生学教室の荒川裕貴さん(当研究室 客員研究員/卒業生)と当研究室の近藤尚己教授による記事「孤立・孤独に関する疫学的知見」が学術誌『BRAIN and NERVE』No.77 Vol.2から出版されました。

本記事では、近年注目を集めている孤立・孤独が健康に及ぼす影響について、国内外の疫学研究の動向と課題を概観し、介入政策の方向性についても提言しています。

特に、孤立・孤独が死亡率、心血管疾患、認知症、精神疾患などのリスク因子となる可能性が数多くの研究で示されており、地域の通いの場など社会環境に介入して孤立・孤独対策に取り組んだ例を紹介し、多様な主体が協力して孤立・孤独対策を行う必要性について述べています。

ぜひお読みください。

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【論文出版】仕事と家庭の両立における葛藤が職務エンゲージメントを低下(医療経済研究機構 小林)

医療経済研究機構の小林由美子さん、当研究室の長谷田真帆講師、近藤尚己教授らの研究グループが、Social Science & Medicineに論文を出版しました。

本論文では、仕事と家庭の両立に伴う双方向の葛藤がワーク・エンゲージメント(仕事に対するポジティブで充実した心理状態)に与える影響を、全国の縦断データを用いて明らかにしました。

その結果、家庭から仕事への葛藤(Family-to-Work Conflict)と仕事から家庭への葛藤(Work-to-Family Conflict)の双方が、ワーク・エンゲージメントの低下と関連していることが分かりました。特に、両方向の葛藤を同時に抱える人ほど、その影響が大きくなる傾向が確認されました。

この知見は、働き方改革やワークライフバランス施策を進める上で、家庭と仕事の相互作用に注目した支援の必要性を示唆しています。

本研究成果は、2025年1月に、Elsevier社が発行する国際学術誌「Social Science & Medicine」に掲載されました。

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【論文出版】アジア系ヘイトクライムと抑うつの関連を解明 (修士課程 播井)

当研究室の卒業生 播井こころさん、井上浩輔准教授、近藤尚己教授とStanford大学のAdrian M Bacong氏による論文が、Social Science & Medicine に掲載されました。

本論文では、米国の州単位におけるアジア系住民へのヘイトクライムの頻度とアジア系や他人種の住民の抑うつや精神的不調との関連を全国データを用いた横断研究により明らかにしています。その結果、アジア系住民に対するヘイトクライムが多い州では、アジア系のみならずヒスパニック系や白人においても抑うつ傾向が高まる「波及効果」が見られました。この結果は、ヘイトクライムが直接の被害者のみならず社会全体のメンタルヘルスに広く影響する可能性を示唆しています。

本研究成果は、2024年11月14日に、Elsevier社が発行する国際学術誌「Social Science & Medicine」に掲載されました。

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論文出版:機械学習を用いた因果効果の異質性のレビュー―医学研究での効果的な応用に向けて― (准教授 井上)

井上浩輔准教授らの研究グループは、ランダム化比較試験(RCT)に基づく医学論文を対象に、因果効果の異質性(治療効果の個人差)を評価する際に使用されている機械学習手法の動向を調査しました。個別化医療の重要性が高まる中、本研究では、因果効果の異質性を解析した32本の臨床論文を特定し、用いられていた手法や応用分野(循環器、集中治療、精神領域など)を明らかにしました。また、各手法の特徴やプログラミングコードも整理しており、今後の臨床研究者による実用的な参考資料として期待されます。

本成果は「Journal of Clinical Epidemiology」に掲載されました。

https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2024-10-30-1

【論文出版】糖尿病におけるSGLT2阻害薬の効果がBMIによって異なることが明らかに―臨床試験の知見を、ビッグデータで幅広い患者層へ拡張― (准教授 井上)

共同研究者の森雄一郎さん(京都大学博士課程)と当研究室の近藤尚己教授、井上浩輔准教授らによる研究グループが、Cardiovascular Diabetologyから論文を出版しました。

https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2024-10-30

論文出版:ポリジェニックリスクスコア×機械学習で紐解く生活習慣病の遺伝的リスクと予防効果との関係(准教授 井上)

井上浩輔 白眉センター/医学系研究科特定准教授、内藤龍彦 大阪大学助教(現:米国マウントサイナイ医科大学(Icahn School of Medicine at Mount Sinai)博士研究員)、岡田随象 同教授(兼:理化学研究所チームリーダー、東京大学大学教授)らの研究グループは、機械学習とポリジェニックリスクスコアを用いて、冠動脈疾患、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧症の4つの生活習慣病とその主要なリスク因子である喫煙や肥満との関係が、その疾患のポリジェニックリスクスコアによってどのように変化するかを評価しました。その結果、「冠動脈疾患の遺伝的リスク」と「喫煙の改善による疾患予防効果」、および「2型糖尿病の遺伝的リスク」と「肥満の改善による疾患予防効果」にそれぞれ高い正の相関があることが解明されました。一方、他の生活習慣病とリスク因子の関係においては、遺伝的リスクが高い人たちが必ずしもリスク因子の改善による予防効果が高いわけではなく、遺伝的リスクが低くてもリスク因子の改善による高い予防効果が期待される人たちが多く存在する可能性があることも示されました。

本研究成果は、国際学術誌「Communications Medicine」にオンライン掲載されました。https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2024-10-04

論文出版:社会参加している高齢者は、人生最後まで自立した生活を送る可能性が高い(共同研究者 上野)

東京都健康長寿医療センター研究所 上野貴之研究員と、当研究室近藤尚己教授らの研究グループは、死亡した高齢者の死亡前3年間の身体機能の変化パターンを「人生の最後まで自立を維持する」「急激に悪化」「徐々に悪化」「中等度維持」「重度維持」の5パターンであることを以前明らかにしました。本研究では、2010年時点で月に1回以上社会参加している高齢者が、社会参加していない高齢者に比べて、「人生最後まで自立を維持するパターン」を辿りやすいことを明らかとしました。
本研究の結果は、健康寿命の延伸や高齢者のQOL向上に向けた重要な示唆を与えるものであり、今後の高齢者政策における社会参加の推進の必要性を強調することができます。

プレスリリースはこちらから

【論文情報】
Ueno T, Saito J, Murayama H, Saito M, Haseda M, Kondo K, Kondo N. Social participation and functional disability trajectories in the last three years of life: The Japan Gerontological Evaluation Study. Arch Gerontol Geriatr. 2024 Jun;121:105361.

DOI: 10.1016/j.archger.2024.105361

論文出版:高齢者の健康・ウェルビーイングと 地域の豊かなつながりとの関連を総合的に評価 ~市民参加の高い地域で社会参加は約3~10%増加、 地域への信頼や規範が高い地域で要介護リスクは約6%減少~(研究協力員 武田)

大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センター 武田将さん(当研究室 研究協力員/卒業)と長谷田真帆講師、近藤尚己教授らによる論文が、Health & Placeから出版されました。

地域の豊かなつながり(ソーシャルキャピタル)が高齢者の健康やウェルビーイングを促進することが数多く報告されていますが、悪い影響についても指摘されています。地域のソーシャルキャピタルの影響は広く影響があることが考えられますが、これまで健康やウェルビーイングについて総合的に評価されてきませんでした。

本研究は全国の高齢者34,183人(一部47,227人)を2016年から3年間追跡し、地域のソーシャルキャピタルと健康やウェルビーイング(41指標)との関連を調べました。結果、ソーシャルキャピタルが豊かな地域に住む人は、2019年の地域組織(趣味・教養サークル等)への参加が約3~10%増え、死亡や要介護状態へ移行するリスクが減少していました。一方で、ソーシャルキャピタルが豊かな地域に住む人で、ボランティアへ参加する割合が減少していました。地域の豊かなつながりは高齢者の健康を促進する可能性がありますが、今回の研究で関連しなかった、あるいは負の影響があった側面を含め、高齢者のウェルビーイングを促進するためには、豊かなつながり作りだけでなく、その他の社会環境整備も併せて行うことが必要かもしれません。

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論文出版:生活保護を利用する高齢者のサブグループごとの日常生活上のニーズが明らかに(助教 上野)

日本でも健康格差が社会問題となっています。健康格差を減少させるためには、個人レベルから社会レベルの介入への転換が必要です。2021年より全国の福祉事務所で生活保護利用者への健康管理支援事業が必須事業となりました。上野恵子助教らは、生活保護利用者の中でも特に健康・生活上の支援を必要としている高齢者に焦点を当て、生活保護を利用する高齢者のサブグループの日常生活上のニーズを明らかにしました。

2021年に2自治体の福祉事務所のケースワーカー4人にインタビュー調査を実施しました。以前実施した量的研究で得られた生活保護を利用する高齢者の男女別の5つのサブグループの結果をケースワーカーに提示して、それぞれのサブグループが抱える日常生活上のニーズを聞き取りました。インタビューの結果、生活保護を利用する高齢者のサブグループには、次の5つの日常生活上のニーズがあることが明らかとなりました:①住居のニーズ、②金銭的ニーズ、③福祉サービス利用のニーズ、④医療ニーズ、⑤日常生活上のニーズなし。この結果から、生活保護を利用する高齢者のサブグループごとに適切な支援の介入が必要であることが分かりました。今後、他分野の専門職(保健師、社会福祉士など)にもインタビュー調査を行い、生活保護を利用する高齢者のサブグループの日常生活上のニーズをさらに理解することが望まれます。

書籍情報:Ueno K, Nishioka D, Saito J, Kino S, Kondo N. Understanding the daily life needs of older public assistance recipient subgroups in Japan: A qualitative study.Glob Health Med. 2024. doi: 10.35772/ghm.2024.01029