論文出版:自治体の衛生部門における健康増進事業のプロセスの現状と課題:6府県全市町村調査の分析結果より

あいち健康の森健康科学総合センター 大曽基宣先生が中心となって執筆を進めた論文が日本公衆衛生雑誌に掲載されました

目的 健康日本21(第二次)の目標を達成するため,各自治体は健康課題を適切に評価し,保健事業の改善につなげることを求められている。本研究は,健康日本21(第二次)で重視されるポピュレーションアプローチに着目して,市町村における健康増進事業の取組状況,保健事業の企画立案・実施・評価の現状および課題について明らかにし,さらなる推進に向けたあり方を検討することを目的とした。

 方法 市町村の健康増進担当課(衛生部門)が担当する健康増進・保健事業について書面調査を実施した。健康増進事業について類型別,分野別に実施の有無を尋ねた.重点的に取り組んでいる保健事業における企画立案・実施・評価のプロセスについて自記式調査票に回答してもらい,さらに参考資料やホームページの閲覧などにより情報を収集した。6府県(宮城県,埼玉県,静岡県,愛知県,大阪府,和歌山県)の全260市町村に調査票を配布,238市町村(回収率91.5%)から回答を得た。

 結果 市町村の健康増進事業は,栄養・食生活,身体活動,歯・口腔,生活習慣病予防,健診受診率向上などの事業に取り組む市町村の割合が高かった。その中で重点的に取り組んでいる保健事業として一般住民を対象とした啓発型事業を挙げた市町村は85.2%,うちインセンティブを考慮した事業は27.4%,保健指導・教室型事業は14.8%であった。全体では,事業計画時に活用した資料として「すでに実施している他市町村の資料」をあげる市町村の割合が52.1%と半数を占め,インセンティブを考慮した事業においては,89.1%であった。事業計画時に健康格差を意識したと回答した市町村の割合は約7割であったが,経済状況,生活環境,職業の種別における格差については約9割の市町村が考慮していないと回答した。事業評価として参加者数を評価指標にあげた市町村は87.3%であったのに対し,カバー率,健康状態の前後評価は約3割にとどまった。

 結論 市町村における健康増進・保健事業は,全自治体において活発に取り組まれているものの,PDCAサイクルの観点からは改善の余地があると考えられた。国・都道府県は,先進事例の紹介,事業の根拠や実行可能な運営プロセス,評価指標の提示など,PDCAサイクルを実践するための支援を行うことが期待される。

大曽基宣、津下一代、近藤尚己、田淵貴大、相田潤、横山徹爾、遠又靖丈、辻一郎.自治体の衛生部門における健康増進事業のプロセスの現状と課題:6府県全市町村調査の分析結果より.日本公衆衛生雑誌 2020;67(1):15-25.DOI: https://doi.org/10.11236/jph.67.1_15

論文出版:幼少期に虐待を受けた高齢者は年間医療費が11万円高い

東京医科歯科大学国際健康推進医学分野 特別研究員の伊角彩さんが中心となって執筆を進めた論文が国際雑誌 JAMA Netw Openに掲載されました

幼少期の被虐待経験はその後の健康に長期的な影響を与え、高齢期にまで及ぶ可能性が示唆されています。では、被虐待経験は高齢期の医療費にまで影響を与えるのでしょうか。

本研究では、政令指定都市A市において、要介護認定を受けていない高齢者への質問紙調査と2012・13年度の医療レセプトデータを連結したデータを用いて、被虐待経験の有無による高齢期の医療費の相違を検討しました。

その結果、家庭内暴力の目撃、身体的虐待、心理的ネグレクト、心理的虐待いずれかの虐待を18歳までに受けていた高齢者(N=176, 18.0%)の年間医療費は、被虐待経験のない高齢者と比べて116,098円高いことが示されました。

この結果から幼少期の被虐待経験によって生じる高齢者の医療費は日本全体で約3,330億円に上ると試算できます。

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掲載:雑誌「治療」 医療者による貧困ケア総論「貧困を治療する―医師が貧困に取り組む意義」

月刊誌『治療(2019年11月 Vol.101 No.11)』の特集「医療と地域をつなげる貧困対策」に総論「貧困を治療する―医師が貧困に取り組む意義」を執筆しました。

貧困は、単にお金が不足していることだけではなく、社会的なネットワークから切り離され孤立した状態など、多くの社会的問題と関連した生活面の困窮全般を包含する概念です。

貧困を軽減が、治療の効果の改善や疾病予防にもつながる可能性があります。

論文出版:運転中止で要介護認定のリスクが2倍

筑波大学医学医療系 市川政雄教授が中心となって執筆を進めた論文が
国際雑誌Journal of Epidemiologyに掲載されました

近年、高齢運転者対策がますます強化され、社会的にも高齢運転者に運転中止を促す機運が高まっています。しかし、運転中止による健康への影響についてはこれまで見過ごされてきました。

そこで本研究では、運転をやめることで要介護認定のリスクがどれくらい高くなるのか、運転をやめても公共交通機関や自転車を利用している場合はどうなのかを検証しました。

その結果、運転をやめた人は運転を続けている人と比べ、要介護認定のリスクが約2倍に上っていました。一方、運転をやめても公共交通機関や自転車を利用している人はそのリスクが約1.7倍に抑えられていました。

高齢運転者は運転をやめれば事故を起こさなくなりますが、活動的な生活が送れなくなることで、健康に悪影響が及ぶと考えられます。高齢運転者対策においては事故のリスクだけでなく、健康のリスクにも配慮が必要といえます。

Hirai H, Ichikawa M, Kondo N, Kondo K. The risk of functional limitations after driving cessation among older Japanese adults: the JAGES cohort study. Journal of Epidemiology(https://doi.org/10.2188/jea.JE20180260)

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論文出版:少額の割引キャンペーンで健康メニューの注文増加

平成28年度の食育月間の事業として、東京都足立区が同区内26の飲食店と協力し、各飲食店において野菜増量メニューを購入した人に50円引きをするキャンペーンを1週間実施しました。
このたび、その結果や考察をまとめた論文が、International Journal of Behavioural Nutrition and Physical Activityに掲載されました

糖尿病などの慢性疾患の予防には、日々の食事や運動の改善が必要です。そのためには、個人の努力だけでなく、健康的な行動をとりやすいように社会環境を整備することが求められます。

東京都足立区は、「住んでいるだけで自ずと健康になれるまち」を掲げて区内の社会環境の整備に力を入れており、糖尿病対策として、区内飲食店・小売店との連携により野菜が多く含まれるなどのメニュー(以下、野菜増量メニュー)を提供する「あだちベジタベライフ協力店」事業を実施しています。
区は「普段は敬遠しがちな人にも野菜増量メニューのおいしさを知ってもらう」ことを目的として、平成28年6月の食育月間中に、賛同を得た同区内26の飲食店において、野菜増量メニューを購入した人に50円キャッシュバックをするという一週間のキャンペーンを行いました。

本研究室では、期間前・期間中の来店者や協力店舗のオーナーへアンケート調査を行いこのキャンペーンの効果の評価をしました。その結果、キャンペーン前の1週間に比べて、キャンペーンを実施した期間では、1日当たりの野菜増量メニュー注文者の割合が1.5倍、飲食店の1日当たりの売り上げが1.77倍に増加しました(図1)。さらに、来店者の属性ごとに検討してみたところ、普段の外食時の平均昼食代(所得の代用変数として活用)が最も低い人や非正規雇用の人々で、注文者割合が他の人々に比べて特に増加したことがわかりました(図2)。

対象者の属性により効果に違いがみられたことから、このような健康づくりの活動を評価する際は対象者の属性別の効果を評価することが大切です。

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図1 キャンペーン前を1とした場合のキャンペーン中の注文者割合および売り上げの比率。バーは95%信頼区間。曜日、気温、湿度、天候、店舗の違いの影響は統計的に取り除いた。

図2 普段の外食時の平均昼食代別にみた野菜増量メニュー注文者の割合。バーは95%信頼区間。性別、年齢をはじめとする個人の属性および店舗の違いの影響は取り除いてある。
* 参照値に対してp < 0.05

Wataru Nagatomo, Junko Saito and Naoki Kondo(2019)Effectiveness of a low-value financial-incentive program for increasing vegetable-rich restaurant meal selection and reducing socioeconomic inequality: A cluster crossover trial. International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity. International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity 16:81
https://doi.org/10.1186/s12966-019-0830-5

論文出版:すべての国で介護予防を「地域づくり」でーWHO機関紙で提言

本教室元特任研究員の齋藤順子さんが中心となって執筆を進めた論文が国際雑誌 Bulletin of the World Health Organizationに掲載されました

高齢化が世界規模で進んできており、世界保健機関もその対策ガイドライン:「高齢者のための統合ケア(ICOPE)」を発表するなど、国際的な動きが活発になっています。

そこで私たちは、世界でいち早く高齢社会を迎えた日本の経験を伝えるべく、世界保健機関の機関紙上で「地域包括ケア:日本の経験からの教訓(Community-based care for healthy ageing: lessons from Japan)」と称した意見論文を発表しました。

2006年から始まった「基本チェックリスト」の活用による虚弱な高齢者の抽出と個別指導(二次予防事業)の開始から、2015年の改正介護保険法による「通いの場づくり」をはじめとする一般介護予防事業(一次予防の事業)に至る経緯を紹介しつつ、個別指導だけではなく、生活の場である地域の社会環境を改善する活動も重要であり、世界的に推進するべきであると主張しました。

Saito, Junko, Haseda, Maho, Amemiya, Airi, Takagi, Daisuke, Kondo, Katsunori. et al. (‎2019)‎. Community-based care for healthy ageing: lessons from Japan. Bulletin of the World Health Organization, 97 (‎8)‎, 570 – 574. World Health Organization. http://dx.doi.org/10.2471/BLT.18.223057

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論文出版:上司からの公平な扱いや配慮が欠ける職場ほど、女性管理職や専門職が抑うつ傾向で喫煙をしている:喫煙割合が6.5%増

本教室の大学院生の小林由美子さんの論文が国際雑誌 PLoS ONEに掲載されました

働き方改革に向けて、職場でのハラスメント対策等が課題となっています。

職場での処遇や評価における公平さや適正さについて、組織の公正性という概念があります。組織公正性は、企業戦略や日常業務に至る様々な場面での決定プロセスに関わる公正性(手続き的公正性)上司と部下の関係性や接し方に関わる公正性(相互作用的公正性)に分類され、前者は従業員の意見が反映されているか、決定に一貫性があるか、後者は上司が部下を尊重しているか、理解を示してくれるか等という状況を表します。組織の公正性が低いと、そこで働く者の心身の健康に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。

今回、日本の民間企業12事業場に勤める労働者9,773名を対象に、組織公正性と、抑うつ症状との関連、およびストレス関連行動としての喫煙、飲酒との関連を分析しました。特に、女性の活躍が叫ばれる昨今、まだ人数の少ない女性の管理職や専門職の孤立の問題が指摘されていましたので、男女別・職種別の影響を分析しました。その結果、どちらの公正性でもそれが低い場合に、職種や性別によらず、抑うつの割合が多くなることが明らかになりました(表)。さらに、相互作用的公正性が低い場合には、特に女性で、管理職・専門職の喫煙の割合が多くなることが明らかになりました(棒グラフ)。

このことから、労働者のこころの健康の維持には組織公正性を保つことが重要であるとともに、今後さらに高度な管理機能・専門技能を持つ女性の活躍を推進する上では、特に職場内の人間関係に関わる公正性が重要であることが示唆されました。

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Kobayashi Y, Kondo N (2019) Organizational justice, psychological
distress, and stress-related behaviors by occupational class in female
Japanese employees. PLoS ONE 14(4): e0214393.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0214393

論文出版:酪農・畜産産出額が高い地域で高い自殺率(過去25年間、一貫した傾向)

本教室の大学院生の金森万里子さんの論文が国際雑誌 Suicide and Life-Threatening Behavior Early View に掲載されました。

農村は都会より自殺率が高いことが世界各国から報告されていますが、農業の種類による違いは報告されていませんでした。

このたび、政府公表のデータを用いて酪農・畜産が盛んな市町村と農作物生産が盛んな市町村の自殺率を比較しました。

その結果、酪農・畜産産出額が高い地域では低い地域より自殺率が高かったことが明らかになりました。この傾向は男女どちらにも見られ、過去25年間にわたって変わりませんでした

地域の歴史や文化、働き方などの特性は、その地域で盛んな農業の種類によって異なります。酪農・畜産が盛んな地域では、助けを求めるのが難しかったり、心身に負担の多い働き方をしている人が多い可能性があります。さらなる調査を行って原因の解明に努めるとともに、自殺予防対策を進めていく必要があることが示唆されました。

Kanamori, M., Kondo, N. (2019). Suicide and Types of Agriculture: A Time-Series Analysis in Japan. Suicide and Life-Threatening Behavior, Early View.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/sltb.12559 (OpenAccess)

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論文出版:リーマンショック後、ふたり親世帯に比べひとり親世帯の女児は1.23倍太りやすく

本教室の元大学院生の芝 孝一郎さんの論文が国際雑誌 International Journal of Environmental Research and Public Health に掲載されました

ひとり親世帯とそうでない世帯の子どもの太りすぎ(過体重)リスク格差が、2008年のリーマンショック後に拡大したか検証しました。

2001年に産まれた全国約3万人を10年間追跡した「21世紀出生児縦断調査」のデータを分析した結果、家庭の経済状況を統計的に除いても、リーマンショック後は、ふたり親世帯に比べてひとり親世帯の子どもは男児は1.10倍, 女児は1.23倍過体重になりやすく、女児では統計的にも明確な結果でした。

子どもの健康格差是正のために、ひとり親世帯へは、経済的な支援に加え、育児支援や孤立予防など社会的な支援が必要である可能性があります。

Shiba K, Kondo N. The Global Financial Crisis and Overweight among Children of Single Parents: A Nationwide 10-Year Birth Cohort Study in Japan. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2019; 16(6):1001.
https://doi.org/10.3390/ijerph16061001

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論文出版:健康意識の高い人はエコ行動をとりやすい?

本教室の大学院生の下田 哲広(しもだ あきひろ)さんの論文が国際雑誌 International Journal of Environmental Health Research に掲載されました

環境負荷の軽減は、人々の健康にも密接に関わる重要な課題であり、環境負荷の軽減と人々の健康増進をともに達成するような方策が求められています。

私たちは、埼玉県川口市にある一般病院の職員(20-60代)584名にアンケート調査を行い、回答が得られた297名について、健康意識とエコ行動(「リサイクル(紙、ガラス、プラスチック、金属)」と「グリーン購入(環境負荷の低い商品を購入すること)」の2つ)の関係を分析しました。

その結果、健康意識が高い人の方がリサイクルをしやすい傾向が明らかになり、健康意識の高い人はエコ行動をとりやすい可能性が示されました。一方、健康意識とグリーン購入との間には統計学的な関連は見られませんでした。

調査を実施した病院では院内のリサイクルに力を入れており、リサイクルをしやすい環境整備がされていたことから、エコ行動を促すためには職場の環境整備が必要であることが明らかになりました。

持続的開発目標(SDGs)の達成には、分野ごとの縦割りの対策ではなく、健康と環境といったように分野同士の連携した取り組みが求められます。本研究の結果がその一助となれば幸いです。

Shimoda, A., Hayashi, H., Sussman, D., Nansai, K., Fukuba, I., Kawachi, I., & Kondo, N. (2019). Our health, our planet: a cross-sectional analysis on the association between health consciousness and pro-environmental behavior among health professionals. International journal of environmental health research.
https://doi.org/10.1080/09603123.2019.1572871

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