論文出版:すべての国で介護予防を「地域づくり」でーWHO機関紙で提言

本教室元特任研究員の齋藤順子さんが中心となって執筆を進めた論文が国際雑誌 Bulletin of the World Health Organizationに掲載されました

高齢化が世界規模で進んできており、世界保健機関もその対策ガイドライン:「高齢者のための統合ケア(ICOPE)」を発表するなど、国際的な動きが活発になっています。

そこで私たちは、世界でいち早く高齢社会を迎えた日本の経験を伝えるべく、世界保健機関の機関紙上で「地域包括ケア:日本の経験からの教訓(Community-based care for healthy ageing: lessons from Japan)」と称した意見論文を発表しました。

2006年から始まった「基本チェックリスト」の活用による虚弱な高齢者の抽出と個別指導(二次予防事業)の開始から、2015年の改正介護保険法による「通いの場づくり」をはじめとする一般介護予防事業(一次予防の事業)に至る経緯を紹介しつつ、個別指導だけではなく、生活の場である地域の社会環境を改善する活動も重要であり、世界的に推進するべきであると主張しました。

Saito, Junko, Haseda, Maho, Amemiya, Airi, Takagi, Daisuke, Kondo, Katsunori. et al. (‎2019)‎. Community-based care for healthy ageing: lessons from Japan. Bulletin of the World Health Organization, 97 (‎8)‎, 570 – 574. World Health Organization. http://dx.doi.org/10.2471/BLT.18.223057

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論文出版:上司からの公平な扱いや配慮が欠ける職場ほど、女性管理職や専門職が抑うつ傾向で喫煙をしている:喫煙割合が6.5%増

本教室の大学院生の小林由美子さんの論文が国際雑誌 PLoS ONEに掲載されました

働き方改革に向けて、職場でのハラスメント対策等が課題となっています。

職場での処遇や評価における公平さや適正さについて、組織の公正性という概念があります。組織公正性は、企業戦略や日常業務に至る様々な場面での決定プロセスに関わる公正性(手続き的公正性)上司と部下の関係性や接し方に関わる公正性(相互作用的公正性)に分類され、前者は従業員の意見が反映されているか、決定に一貫性があるか、後者は上司が部下を尊重しているか、理解を示してくれるか等という状況を表します。組織の公正性が低いと、そこで働く者の心身の健康に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。

今回、日本の民間企業12事業場に勤める労働者9,773名を対象に、組織公正性と、抑うつ症状との関連、およびストレス関連行動としての喫煙、飲酒との関連を分析しました。特に、女性の活躍が叫ばれる昨今、まだ人数の少ない女性の管理職や専門職の孤立の問題が指摘されていましたので、男女別・職種別の影響を分析しました。その結果、どちらの公正性でもそれが低い場合に、職種や性別によらず、抑うつの割合が多くなることが明らかになりました(表)。さらに、相互作用的公正性が低い場合には、特に女性で、管理職・専門職の喫煙の割合が多くなることが明らかになりました(棒グラフ)。

このことから、労働者のこころの健康の維持には組織公正性を保つことが重要であるとともに、今後さらに高度な管理機能・専門技能を持つ女性の活躍を推進する上では、特に職場内の人間関係に関わる公正性が重要であることが示唆されました。

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Kobayashi Y, Kondo N (2019) Organizational justice, psychological
distress, and stress-related behaviors by occupational class in female
Japanese employees. PLoS ONE 14(4): e0214393.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0214393

論文出版:酪農・畜産産出額が高い地域で高い自殺率(過去25年間、一貫した傾向)

本教室の大学院生の金森万里子さんの論文が国際雑誌 Suicide and Life-Threatening Behavior Early View に掲載されました。

農村は都会より自殺率が高いことが世界各国から報告されていますが、農業の種類による違いは報告されていませんでした。

このたび、政府公表のデータを用いて酪農・畜産が盛んな市町村と農作物生産が盛んな市町村の自殺率を比較しました。

その結果、酪農・畜産産出額が高い地域では低い地域より自殺率が高かったことが明らかになりました。この傾向は男女どちらにも見られ、過去25年間にわたって変わりませんでした

地域の歴史や文化、働き方などの特性は、その地域で盛んな農業の種類によって異なります。酪農・畜産が盛んな地域では、助けを求めるのが難しかったり、心身に負担の多い働き方をしている人が多い可能性があります。さらなる調査を行って原因の解明に努めるとともに、自殺予防対策を進めていく必要があることが示唆されました。

Kanamori, M., Kondo, N. (2019). Suicide and Types of Agriculture: A Time-Series Analysis in Japan. Suicide and Life-Threatening Behavior, Early View.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/sltb.12559 (OpenAccess)

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論文出版:リーマンショック後、ふたり親世帯に比べひとり親世帯の女児は1.23倍太りやすく

本教室の元大学院生の芝 孝一郎さんの論文が国際雑誌 International Journal of Environmental Research and Public Health に掲載されました

ひとり親世帯とそうでない世帯の子どもの太りすぎ(過体重)リスク格差が、2008年のリーマンショック後に拡大したか検証しました。

2001年に産まれた全国約3万人を10年間追跡した「21世紀出生児縦断調査」のデータを分析した結果、家庭の経済状況を統計的に除いても、リーマンショック後は、ふたり親世帯に比べてひとり親世帯の子どもは男児は1.10倍, 女児は1.23倍過体重になりやすく、女児では統計的にも明確な結果でした。

子どもの健康格差是正のために、ひとり親世帯へは、経済的な支援に加え、育児支援や孤立予防など社会的な支援が必要である可能性があります。

Shiba K, Kondo N. The Global Financial Crisis and Overweight among Children of Single Parents: A Nationwide 10-Year Birth Cohort Study in Japan. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2019; 16(6):1001.
https://doi.org/10.3390/ijerph16061001

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論文出版:健康意識の高い人はエコ行動をとりやすい?

本教室の大学院生の下田 哲広(しもだ あきひろ)さんの論文が国際雑誌 International Journal of Environmental Health Research に掲載されました

環境負荷の軽減は、人々の健康にも密接に関わる重要な課題であり、環境負荷の軽減と人々の健康増進をともに達成するような方策が求められています。

私たちは、埼玉県川口市にある一般病院の職員(20-60代)584名にアンケート調査を行い、回答が得られた297名について、健康意識とエコ行動(「リサイクル(紙、ガラス、プラスチック、金属)」と「グリーン購入(環境負荷の低い商品を購入すること)」の2つ)の関係を分析しました。

その結果、健康意識が高い人の方がリサイクルをしやすい傾向が明らかになり、健康意識の高い人はエコ行動をとりやすい可能性が示されました。一方、健康意識とグリーン購入との間には統計学的な関連は見られませんでした。

調査を実施した病院では院内のリサイクルに力を入れており、リサイクルをしやすい環境整備がされていたことから、エコ行動を促すためには職場の環境整備が必要であることが明らかになりました。

持続的開発目標(SDGs)の達成には、分野ごとの縦割りの対策ではなく、健康と環境といったように分野同士の連携した取り組みが求められます。本研究の結果がその一助となれば幸いです。

Shimoda, A., Hayashi, H., Sussman, D., Nansai, K., Fukuba, I., Kawachi, I., & Kondo, N. (2019). Our health, our planet: a cross-sectional analysis on the association between health consciousness and pro-environmental behavior among health professionals. International journal of environmental health research.
https://doi.org/10.1080/09603123.2019.1572871

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論文出版:研究不正が疑われる論文を審査する際に活用するチェックリストを作成

研究不正が疑われる論文を審査する際に活用するチェックリストを作成したという論文をRetraction Watchに出版しました(タイトル:How to investigate allegations of research misconduct: A checklist)。
一般財団法人公正研究推進協会(APRIN)の委員として作成に参加しました。

作成したチェックリストはこちら(英語)

論文出版:機能性食品を買うのは、自分をカッコよく見せたいから? リトアニアでの共同研究

ビタミン強化食品など、いわゆる機能性食品は世界中で普及しています。しかしなぜ人々は機能性食品を買うのでしょうか?健康のためと思って買うのでしょうか?おそらく実際は「機能性食品を買う自分がカッコイイ」「つい買ってしまう」「友達が買っているから」といった様々な理由が考えられるのではないでしょうか。

日本と同様、機能性食品の市場が拡大しているリトアニアに住む900人へのインターネット調査により、顕示的消費傾向(カッコよく見せるために買う傾向が強い)人や、社会や周囲の考え方や規範の影響を受けやすい人は、機能性食品を高く評価していました。一方で自制心のある人は機能性食品を低く評価していました。

実際、機能性食品業界でのマーケティングや健康増進において、政策立案者やマーケティング担当者は、顕示的消費など消費者の社会的な動機にも働きかけているようです。過剰に機能性食品を買ってしまったり、適切に摂取するように促すためにも、消費者の行動の背景にある心理を解明することは役立つと思われます。

この研究はリトアニアのJustina Gineikiene氏の研究チームとの共同執筆論文です。国際学術誌 Appetite に掲載されました。

書誌情報:Barauskaite, D., Gineikiene, J., Auruskeviciene, V., Fennis, B. M., Yamaguchi, M., & Kondo, N. (2018). Eating healthy to impress: How conspicuous consumption, perceived self-control motivation, and descriptive normative influence determine functional food choices. Appetite.
https://doi.org/10.1016/j.appet.2018.08.015

論文出版: 中高生の価値観と幸福感との関連:国際比較(韓国・日本・中国)研究

価値観は幸福感と考関係すると考えられますが、価値観は政治的な思惑等々により、国によって異なります。

今回、韓国の研究チームと共同で、その国際比較を行いました。韓国、日本、中国の中高生それぞれ約2000人を対象とした国際的研究である、思春期価値観調査(2008年)のデータを分析しました。

価値観に関する36問の質問を5つの価値観に分類したところ、両親の学歴や世帯構成、信仰などとは独立して、どの国でも、博愛・善行(benevolence)と利他主義(altruism)が幸福度と関連しました。一方、家父長制的な規範(patriarchy)は中国の学生では幸福度が高いことと関連しましたが、日本の学生ではその逆の結果でした。韓国では成功を追い求めること(success pursuit)と幸福度が低いことが関連していました。

いずれの国においても、博愛や利他性が幸福度と関連したことは特筆すべき結果です。

研究はソウル大学校のチュワン・オー教授のチームとの共同執筆論文です。国際学術誌 Journal of Youth Studiesに掲載されました。

書誌情報: Heo, J., Lin, S. F., Kondo, N., Hwang, J., Lee, J. K., & Oh, J. (2018). Values and happiness among Asian adolescents: a cross-national study. Journal of Youth Studies, 1-16.
https://doi.org/10.1080/13676261.2018.1513640

論文出版:スウェーデン、所得による自殺の格差が増加 全国民追跡データの分析

スウェーデンの全国民の追跡データを用いた分析の結果、1990年から2007年までの間に、低所得者ほど自殺が多いという格差が拡大傾向にあり、特に女性においてこの関連がみられることが明らかになりました。1994年に起きたスカンジナビア諸国の経済危機やその後の社会保障施策の見直し等、危機対応政策の関連を示唆する傾向がみられました。
スウェーデンは就労における性差が世界で最も少ない国の一つです。しかし、その多くは公的機関で働いています。私企業と比べ、公的機関では社会保障施策の見直し等による所得や労働条件の変更の影響が直接現れることが知られており、これが今回の研究結果に関係していた可能性があります。

本研究はスウェーデン・オレブロ大学の日吉 綾子氏、ストックホルム大学・健康の公平性研究センター所長のミッケ・ロスティラ氏との共同執筆論文です。英国の国際学術誌 Journal of Epidemiology and Community Healthに掲載されました

なお、所得による自殺率の格差は 格差勾配指数と格差相対指数 という指標を用いました。
参考文献: 近藤尚己. “地域診断のための健康格差指標の検討とその活用.” 医療と社会 24.1 (2014): 47-55.

書誌情報: Hiyoshi A, Kondo N, Rostila M Increasing income-based inequality in suicide mortality among working-age women and men, Sweden, 1990–2007:
is there a point of trend change? J Epidemiol Community Health Published Online First: 18 July 2018. doi: 10.1136/jech-2018-210696f

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