孤独・孤立対策推進会議へ報告しました(教授・近藤)

教授の近藤が構成員を務める内閣府「孤独・孤立対策の在り方に関する有識者会議」で取りまとめた意見書が政府の「孤独・孤立対策推進会議」(三原担当大臣が議長を務め、関係省庁の局長級等が構成員)に提出され、令和7年5月15日に開催された同会議で報告されました。

意見資料リンク(内閣府サイト)

近藤が上記「有識者会議」へ提出した意見書はこちらです(以下抜粋)。

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【保険者とかかりつけ医等の協働による加入者の予防健康づくりに関する補助事業の成果普及に向けた提案】
1. 同補助事業の存在を保険者協議会だけでなく、その関係者︓各保険者・自治体やサービス提供機関等、そして一般国民にも周知すること

2. 事業の契約や会計作業の簡易化を図ること

3. モデル事業で構築された各取組の事後評価や、地域介入研究による定量的・定性的評価研究を進めること

4. 社会的処方の認知や理解を高めること、そしてモデル事業の成果の普及を進めるための啓発や教育、研修の活動を行うこと。関係諸団体(臨床系・福祉系の各種学会)医師会・歯科医師会・薬剤師会・看護協会等の職能団体など)とともに行うことが望ましい。医療においてはプライマリケア ・循環器 ・糖尿病 等に係る学会が関連する活動を進めており、そういった団体との連携が期待される。日本医師会や各地の医師会での活動も見られており、医師会による「かかりつけ医」普及の議論、産業医の在り方に関する議論等とともに推進することが有効であろう 。

【社会的処方の推進に向けた政策提案】
1.慢性疾患管理に係わるかかりつけ医への推奨:社会的処方や健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health: SDH)の概念を踏まえ、医療機関において慢性疾患や歯科疾患の患者に対して、SDH の情報を収集し、リンクワーカー等相談員につなげる対応を促すための制度的な工夫を進めること。例えば、既存の診療報酬制度において、生活習慣病管理料の療養計画書様式(参考資料参照)の工夫ができる。上記モデル事業で活用された SDH 関連の問診項目を参考にして、評価項目を充実させたり、運用のガイダンスを提示するなどである。

2.社会的処方を推進する各種ツールの普及モデル事業で活用が進められた以下の各ツールについて、さらなる実用性や標準化の検討を進め、普及を図り、効果を評価すること。

3.医療機関から地域の活動へとつなげる相談員(リンクワーカー)機能の強化:地域包括支援センターや子ども家庭センター等において、医療機関からの患者の照会の仕組みを導入する、そのための人材育成や人材の強化を行うなど。

4.社会資源情報の収集と活用推進:患者や住民の孤独や孤立、社会生活の充実に資する社会資源情報を、生活圏域単位で把握し、活用する枠組みや情報ツールの普及。

5.特定保健指導の場における患者の社会的課題への対応へ保険者インセンティブ:保険者インセンティブ交付金指標へ社会的処方に関連する活動項目を入れるなど(モデル事業においては、栃木県の特定保健指導の場での実装モデルが参考になる)。

6.ICT やスマートフォンを活用した推進:患者の SDH の情報や健診のデータなどを本人のパーソナルヘルスレコード(PHR)として持ち歩き各所で活用できる枠組みを推進すること。デジタル田園都市構想等と連携して、それらのリソースを活用する事例がみられている(兵庫県養父市のモデル事業の取組:AI リンクワーカーアプリの活用)。

7.介護の総合事業への実装:総合事業の実施の際に、上記のような医療機関における患者の社会背景の情報収集の取組等と連動させて活用していくこと。また、導入のハードルを下げるための支援や人材育成、制度運用への伴走型支援の仕組みづくりを進めること

8.介護保険制度への SDH 概念の実装:要介護認定審査の際の生活機能の評価項目や主治医意見書の作成時に、社会生活機能(孤立や孤独、地域活動への参加可能性等)のアセスメント項目を追加するなど

9.地域包括支援センター・ことも家庭センター等を軸とした社会資源の開拓や人材育成の推進:社会的処方の取組には、幅広く多様な地域における社会参加の場(広義の通いの場)が作られていくこと、そういった社会資源を充実させていくことが必要。

10. 成果連動型の公共事業の枠組みの活用:民間事業者(NPO などを含む)による受皿を増やすために、内閣府や経済産業省が奨励している成果連動型民間委託契約方式(PFS:Pay For Success)(ソーシャルインパクトボンド:SIB を含む)を活用した社会的処方の取組支援を強化すること。堺市、東大阪市、豊田市、静岡市などで実際の取り組みが進んでおり、一層の拡大に向けた国や都道府県による支援が期待される。

11.産業保健における社会的処方の推進:従業員や事業所単位のストレスチェックなどの指標や孤独孤立に関する従業員向けの聞き取り情報等をもとに、産業医や産業保健師等が社会的処方へと接続できるようにする。日本医師会が行っているかかりつけ医機能研修でも推奨されている。労働者が医療機関を訪れる「未病」の段階での孤立・孤独予防に資するしくみが形成できる。定年退職後の地域での孤立が高齢者のウェルビーイングに負の影響をもたらすことが疫学研究から把握されており、退職前からの対応は重要。
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「孤独・孤立対策推進会議」への意見所への主な反映部分はこちら:

○ (4ページ)様々な悩みを抱えた複雑なケースが増加する中で、多様なつながりのタッチポイント(場)をつくっていくことや、福祉分野と教育あるいは労働の連携といった分野を超えた多様な機関による連携が重要になる。こうした中、現行の重点計画にも掲げられているとおり、保険者とかかりつけ医が地域包括支援センターや社会福祉協議会職員を含む地域社会を紹介し、保険加入者の予防健康づくりと社会面の課題を解決するための取組を進める、いわゆる「社会的処方」の推進が期待される。併せて、産業医等の産業保健スタッフによる職域での孤独・孤立対策の推進も重要である。こうした、専門職の連携を含め、保健・医療・介護・福祉・教育等分野横断的な対応が求められるといえる。「分野横断的な対応」とは、見方を変えると、「制度間の連携の強化」にほかならない。また、重層的支援体制整備事業を含む包括的な支援体制の整備や生活困窮者自立支援制度など、特に孤独・孤立対策と密接に関連する施策を一体的に実施することを含め、連携を更に強化し、相乗効果を図っていくべきである。さらには、福祉分野を中心とした「個別支援」に留まらず、より広いまちづくりの観点から、地域における様々な主体が目標を共有しながら孤独・孤立対策を進めることが大事である。

○(5ページ) 孤独・孤立対策の推進に当たっては、国内における取組だけでなく、WHOにおける社会的つながりに関する委員会の動向とも連動を図るなど、国際連携を更に深化させていくことも重要である。

【出版イベント】世界銀行による高齢者ケアレポート

近藤尚己・佐藤豪竜が共著者として関与した書籍が世界銀行より出版されます。そのローンチイベントが2月末に東京でハイブリッド開催されます。

執筆者として近藤が執筆担当箇所の解説を行います。ふるってご参加ください。

以下、世界銀行ウェブサイトより:

この度、世界銀行保健・人口・栄養グローバル・プラクティス は、2023年2月27日(月)に、「高齢化社会に見出す機会:統合された人間中心の高齢者ケアの構築」報告書の発表会をハイブリッド形式(会場参加またはオンライン参加)にて開催します。

書籍名:Silver Opportunity : Building Integrated Services for Older Adults around Primary Health Care

本報告書は、日本政府と世界銀行が共同設立した「日本開発政策・人材育成基金(PHRD: Policy and Human Resources Development Fund)」の「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」枠の助成を受けた優先政策課題研究の成果物です。本報告書は、高齢化に関する世界のデータ及び国別のケーススタディで構成されており、各国政府が、健康格差を縮小、高齢者の健康増進、人々の繁栄に寄与するための道筋を提供します。本報告会では、共同編集者が来日し、主要な研究結果、日本を中心とした国別のケーススタディ、政策立案・実行に向けた教訓及び提言をご紹介します。

イベント詳細

  • 日時: 2023年 2月27日(月) 午前10時―午前11時30分(日本時間)
  • 開催形式: ハイブリッド形式(会場参加またはZoomによるオンライン参加。オンラインの参加登録をされた方には後日、Zoomリンクをお送りします。)
  • 場所(会場参加の場合): 世界銀行東京事務所 東京都千代田区内幸町2-2-2 富国生命ビル14階(アクセス方法は、下記「関連項目」をご覧ください)
  • 参加費: 無料
  • 言語: 英語
  • お申込み: 以下の登録フォームからお申込みください(会場参加もオンライン参加も参加登録が必要です)。フォームが作動しない場合は、お名前、ご所属(会社・団体名、ご部署、ご役職)、メールアドレスを明記の上、下記までメールをお送りください。
  • お問合せ: 世界銀行東京事務所 03-3597-6650
  • ptokyo@worldbank.org

登録フォーム

 

気候変動へ医療はどう関わるか(近藤尚己)【コラム・意見】

気候変動は命の問題であり、次世代と私たち世代との健康格差の問題でもあります。
 
英国医師会は気候変動対策を医師もリーダーを担い進めるべきと言っています。英国は疾病の予防も医療もすべてNational Health System: NHSという巨大国家機関が一元管理していますが、NHS全体で全産業が排出する温暖化ガスの5%を排出しています。
国立環境研究所の南齋規介氏を中心に推計した結果では、日本では2011年時点で全産業による温暖化ガス排出の4.6%が保健医療由来と算出されています。治療は予防や保健活動に比べて温暖化ガス排出量がはるかに多く、また、未使用の処方薬や残薬による同排出量は、家庭向けの市販薬消費によるそれと同程度と無視できない量であることなどがわかっています。
 医療のムダの削減、治療よりも予防への投資等を進めることが「地球の健康」と「次世代の健康」をまもるために大切と言えます。
 医療産業の動きも少し始まっており、例えば英国の製薬企業アストラゼネカは2025年までに企業活動のカーボンゼロ達成、2030年までのカーボンマイナス達成を目指しています(同社とCOIはありません)。大変意欲的な目標です。
日本は多様なステークホルダーが医療産業全体にかかわっており、英国NHSが担う役割も、各医療・介護・福祉の機関、保健所、保健センター、地域包括支援センター等々、多様な公的・準公的・民間組織がかかわっています。環境保全、およびプラネタリーヘルス推進に向けたガバナンス構築が必要です。命を守るための活動の担い手である医療従事者、とりわけ社会的責任が大きな医師の参画は重要でしょう。
国際NGOプラネタリーヘルス・アライアンスは、10月に「サンパウロ・プラネタリーヘルス宣言」を公表、国内では長崎大学をはじめ、5つの学術機関が署名しました。本文やの所属する京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻も署名しました。声明文には医療従事者へのメッセージが寄せられています。
上記NGOメンバーの長崎大学が全文を翻訳しています。 翻訳文はこちら。下記が同宣言の中の、医療従事者に向けたメッセージの抜粋です。
「医療従事者の方へ」
「将来の医療従事者が使う主要なカリキュラムと職業上の行動規範の中に、プラネタリーヘルスの概念と価値観を直ちに取り入れてください。患者にプラネタリーヘルスの概念を教育するとともに、人間と地球との関係が良好でないことによる悪影響について[一般からの]信頼の厚い医療従事者が注意喚起の声をあげてください。先住民族の知識を含む、西洋医学を超えた多様な知識と実践とを活用してください。基本的な人権としての医療サービスへの公的アクセスを含め、プラネタリーヘルスを促進する患者中心の政策を支援し、診療所にとどまらない解決策やコミュニティサービスを活用してください。」
文責 近藤尚己

JSPS特別研究員申請希望者受付中

日本学術振興会による2022年4月採用分の特別研究員(ポスドク)申請が4月上旬より始まります。 詳細はこちら

近藤尚己が所属する下記研究室では、この制度を活用して当分野で研究を進めることを希望する意欲ある若手研究者をお待ちしております。

京都大学大学院医学研究科社会疫学分野
受け入れテーマ:主に社会疫学・や健康の社会的決定要因、社会的処方に関する研究

東京大学未来ビジョン研究センター
受け入れテーマ:SDGs等、分野をまたいだ研究

申請に向けた相談は随時受け付けています。ご希望の方は履歴書、研究歴、業績リスト、その他の参考資料をご用意の上で、contact [at] socepi.med.kyoto-u.ac.jp までご連絡ください。

 

研究発表「コロナ流行下における食生活の変化」 (株)リンクアンドコミュニケーションとの共同研究

共同研究を進めている株式会社リンクアンドコミュニケーションが、PR TIMESにプレスリリースを発表しました。

京大大学院 近藤研究室(医学研究科社会疫学分野)との共同研究 「コロナ流行下における食生活の変化」を論文発表
PR TIMES 2020.12.4

(近藤 尚己のコメント)
在宅ワークが持ちうる健康上のメリットの一端を示唆する貴重なデータだと思います。反対に、抑うつ傾向の疑いのある方や子育て時間が大幅に増えた方などで野菜や果物摂取量が減る傾向にあるなど、今、社会として守るべき人々が誰かを一部明らかにした点も重要です。新型コロナウイルスの流行が社会生活や健康状態にどのように影響を与えたかを明らかにできるデータが限られている中で、このような健康管理アプリの活用はとても重要だと思います。引き続き、様々な切り口で現状を明らかにしていくとよいと思います

論文出版:フレイル予防のためのプライマリ・ケアでのアプローチ

近藤尚己が共同研究をすすめている、WHO神戸センターのローゼンバーグ恵美さんを筆頭著者とする論文が、国際誌「Integrated Healthcare Journal」に掲載されました。

高齢化社会に対応する日本の新しい試みとして、フレイル予防のためのプライマリ・ケアでのアプローチを紹介しました。

Rosenberg, M., Kondo, K., Kondo, N., Shimada, H., & Arai, H. (2020).
Primary care approach to frailty: Japan’s latest trial in responding to the emerging needs of an ageing population.
Integrated Healthcare Journal, 2(1), e000049.
http://dx.doi.org/10.1136/ihj-2020-000049

講演のお知らせ:健康経営会議2020

近藤尚己が12月17日の「健康経営会議2020:新型コロナ流行下における企業の健康経営の在り方」のパネルディスカッションと講演動画に登壇します。
事前申し込みが必要で、先着700名(無料)となっています。皆様の参加をお待ちしております。

健康経営会議2020
12月17日(木)15:00-17:00、オンライン、先着700名(無料)
事前申し込みはこちら
近藤尚己の講演動画「新型コロナ流行下での健康格差について」

コメント:産後うつリスク軽減効果を検証へ

NHKのニュース記事に近藤尚己がコメントしました。
またそのインタビューの様子がニュースで放送されました。

首都圏 NEWS WEB、2020/10/6

こうした研究は国内では例がないということで、東京大学大学院の客員研究員で京都大学大学院の近藤尚己教授は「新型コロナウイルスの影響でオンライン相談への関心も高まっているので、効果があるかどうか科学的にしっかり評価したい。多くの人に参加してほしい」と話していました。

(株)マッキャンヘルスケアワールドワイドジャパンとの共同研究

(株)マッキャンヘルスケアワールドワイドジャパンとの共同研究を進める契約を締結しました。
「高齢者の音声データ等を用いた効果的な認知症予防法の開発・評価」に関する研究を行います。

(株)マッキャンヘルスケアワールドワイドジャパン

関連サイト
認知症の社会的処方箋

日本公衆衛生学会総会で優秀口演賞受賞・最優秀口演賞

第79回日本公衆衛生学会総会2020で、当教室の日本学術振興会SPDの木野志保さんが優秀口演賞を受賞しました(2020年10月21日)! 口演タイトル:Mental, physical and social health among older Japanese with public assistance

また、共同研究者である国立長寿医療研究センター・JAGES機構の宮國康弘さんが最優秀口演賞を受賞しました。JAGESからは4年連続最優秀口演賞が選ばれています!

木野さん、宮國さん、おめでとうございます!