気候変動へ医療はどう関わるか(近藤尚己)【コラム・意見】

気候変動は命の問題であり、次世代と私たち世代との健康格差の問題でもあります。
 
英国医師会は気候変動対策を医師もリーダーを担い進めるべきと言っています。英国は疾病の予防も医療もすべてNational Health System: NHSという巨大国家機関が一元管理していますが、NHS全体で全産業が排出する温暖化ガスの5%を排出しています。
国立環境研究所の南齋規介氏を中心に推計した結果では、日本では2011年時点で全産業による温暖化ガス排出の4.6%が保健医療由来と算出されています。治療は予防や保健活動に比べて温暖化ガス排出量がはるかに多く、また、未使用の処方薬や残薬による同排出量は、家庭向けの市販薬消費によるそれと同程度と無視できない量であることなどがわかっています。
 医療のムダの削減、治療よりも予防への投資等を進めることが「地球の健康」と「次世代の健康」をまもるために大切と言えます。
 医療産業の動きも少し始まっており、例えば英国の製薬企業アストラゼネカは2025年までに企業活動のカーボンゼロ達成、2030年までのカーボンマイナス達成を目指しています(同社とCOIはありません)。大変意欲的な目標です。
日本は多様なステークホルダーが医療産業全体にかかわっており、英国NHSが担う役割も、各医療・介護・福祉の機関、保健所、保健センター、地域包括支援センター等々、多様な公的・準公的・民間組織がかかわっています。環境保全、およびプラネタリーヘルス推進に向けたガバナンス構築が必要です。命を守るための活動の担い手である医療従事者、とりわけ社会的責任が大きな医師の参画は重要でしょう。
国際NGOプラネタリーヘルス・アライアンスは、10月に「サンパウロ・プラネタリーヘルス宣言」を公表、国内では長崎大学をはじめ、5つの学術機関が署名しました。本文やの所属する京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻も署名しました。声明文には医療従事者へのメッセージが寄せられています。
上記NGOメンバーの長崎大学が全文を翻訳しています。 翻訳文はこちら。下記が同宣言の中の、医療従事者に向けたメッセージの抜粋です。
「医療従事者の方へ」
「将来の医療従事者が使う主要なカリキュラムと職業上の行動規範の中に、プラネタリーヘルスの概念と価値観を直ちに取り入れてください。患者にプラネタリーヘルスの概念を教育するとともに、人間と地球との関係が良好でないことによる悪影響について[一般からの]信頼の厚い医療従事者が注意喚起の声をあげてください。先住民族の知識を含む、西洋医学を超えた多様な知識と実践とを活用してください。基本的な人権としての医療サービスへの公的アクセスを含め、プラネタリーヘルスを促進する患者中心の政策を支援し、診療所にとどまらない解決策やコミュニティサービスを活用してください。」
文責 近藤尚己