論文リリース:Relative deprivation in income and mortality by leading causes among older Japanese men and women: AGES cohort study

本日、論文がリリースされました。オープンアクセスです。
J Epidemiol Community Health 2015;69:680-685 doi:10.1136/jech-2014-205103

Socioeconomic factors and health
Relative deprivation in income and mortality by leading causes among older Japanese men and women: AGES cohort study

Open Access

Naoki Kondo1, Masashige Saito2, Hiroyuki Hikichi3, Jun Aida4, Toshiyuki Ojima5, Katsunori Kondo2, 3, Ichiro Kawachi6

http://jech.bmj.com/content/69/7/680.full

所得格差は循環器疾患の死亡リスクを特に上げる可能性:論文出版

所得格差が拡大すると、自身の所得水準は変わらなくても、より高所得な人との所得の差が拡大します。それに応じて、みじめさやねたみ、あきらめといった負の感情を持つ機会も増えます。

高齢者3.3万人を長期間追跡している愛知老年学的評価研究(AGES、JAGES研究の一部)のデータを分析したところ、グループ内のうち、自分よりお金持ちの人と自分の所得との差の平均値が大きい(グループ内の相対的はく奪度)人ほど、自分の所得水準にかかわらず、その後循環器疾患(心臓病や脳卒中)で死亡するリスクが高まることがわかりました。

一方、がんや呼吸器疾患など、その他の原因による死亡とは統計的に有意な関連がみられませんでした。さらに、このような関係は男性でのみ観察されました。

以前より、所得格差が大きな社会では誰もが(富裕層ですら)不健康になる可能性が知られていますが、本研究結果は、その理由として、格差が大きな社会では周囲との生活水準の違いが強いストレスとなって、ストレスによって影響を受けやすい心臓や脳血管の病気による死亡のリスクを上げる、というメカニズムが関連している可能性を示唆するものです。

この結果は、英国の専門誌Journal of Epidemiology and Community Healthから出版されました:

Naoki Kondo, Masashige Saito, Hiroyuki Hikichi, Jun Aida, Toshiyuki Ojima, Katsunori Kondo, Ichiro Kawachi. Relative deprivation in income and mortality by leading causes AMONG older Japanese men and women: AGES cohort study. Journal of Epidemiology and Community Health. doi:10.1136/jech-2014-205103   Open Access.

論文はここから無料でダウンロードできます。
http://jech.bmj.com/content/early/2015/02/19/jech-2014-205103.full

論文出版:高齢の被災者―買い物環境までの距離が遠いと閉じこもりに:陸前高田市健康生活調査

2011年の東日本大震災の津波で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市では、同市が実施した調査データを分析したところ、小売店やバス停、移動販売などが行われる場所までの距離が遠い自宅に住んでいる高齢者ほど、外出頻度が少なく「閉じこもり」になりやすいことがわかりました。

一方で、一部の地域では、震災後、地元スーパーなどが開始した買い物バス等により、買い物環境までのアクセスが大幅に緩和しているケースも見られました。災害復興における、官民のパートナーシップが良い効果を生み出している事例といえるかもしれません。

復興住宅の建設が進むなど、コミュニティの再生が正念場を迎えています。新たな地域環境の整備を進める際の参考になればと思います。

論文は、15日に老年学の最高峰のひとつである英国のAge and Ageing誌から出版されました。

論文はこちら(無料でダウンロードが可能です)

所属研究グループより:(日経記事)男性のうつ7分の1に 趣味の集まりで中心メンバー

日本老年学的評価研究 高齢者の社会参加状況を調査し、その後の要介護の発生を観察しました。ボランティアやスポーツ関係、老人クラブなどのグループに参加しいること、さらにその中で世話役などをするなど、積極区的に参加しているほど自立した生活を長く営めることがわかりました。

日経新聞電子版記事: http://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXLASDG0402Q_V00C14A9CR0000&uah=DF_SOKUHO_0010

新しい論文が出版されました:スウェーデンの就労世代の健康格差拡大

多くの先進国で、近年健康格差の拡大が懸念されています。

本日、英国の学術誌Journal of Epidemiology and Community Healthより出版され論文で、福祉国家として最も長い歴史を持つスウェーデンの就労世代の男女でも、所得階層間の死亡率が90年台から上昇していることが示されました。

論文はこちら(無料で読めます):http://jech.bmj.com/content/early/2014/08/20/jech-2013-203619.full

スウェーデンでは、一定の許可のもとで、全国民の様々な統計情報を研究等の目的で使用することができます。今回、1990年から2004年までの間の住民票の情報や所得情報等を、30歳以上65歳未満の全国民について取得し、3年後の生存の有無の情報と結合することで、繰り返しの追跡調査、というデザインの分析を行いました。その結果、男性では90年代以降、緩やかに所得階層による死亡率の格差が拡大たことがわかりました。つまり、低所得の人と高所得の人それぞれが3年以内に死亡する確率の差が拡大したということです。特に低所得者の死亡リスクが上昇している傾向が観察されました。

さらに、女性では、男性以上に、特に1995年以降上昇のスピードが高まったことがわかりました。

同国では90年台前半に深刻な経済不況が起こり、社会保障制度や税制改革が行われ、経済弱者への保護施策に一定の減弱が起きたことが知られています。今回観察された結果は、そういった制度の影響によるかのうせいが考えられ、今後検証を進めていくことが必要と思われます。

女性のほうで顕著に格差が拡大していることに理由としては、スウェーデンの女性は約8割が公的機関で働ていることが関係している可能性が考えられます。公的機関の労働者は、民間企業の労働者よりも、そういった制度の影響を直接受けやすいからです。