論文出版:国連が提唱する、健やかに年を重ねるための「機能的能力」の評価指標を開発・妥当性を確認(博士課程 西尾)

博士課程の西尾は、国際連合が提唱するヘルシーエイジングの概念の妥当性に関する論文を発表しました。

国際連合は、2021年〜2030年の10年間を「Decade of Healthy Ageing(ヘルシーエイジングの10年間)」に設定し、Healthy Ageingの進展を示す指標としてFunctional Ability(機能的能力:個人の身体的・精神的能力とそれを活かすことができる環境の組み合わせ)のモニタリングを各国に促しています。しかし、Functional Abilityの測定方法や、その概念的妥当性はほとんど検討されておらず、モニタリングの実施は困難でした。
本研究は、日本に住む65歳以上の高齢者約35,000人のデータを用いて、Functional Abilityの測定方法を開発し、その概念の妥当性を検討しました。
本研究結果は、日本の高齢者のデータによってFunctional Abilityの概念が裏付けられたことを示しています。Healthy Ageingの世界的な普及とモニタリングの推進のためには、他国のデータを用いてFunctional Abilityの概念を検証する更なる研究が必要とされています。
本研究は、Oxford University Pressが刊行する「Age and ageing」に掲載されました。
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【書誌情報】
Nishio M, Haseda M, Inoue K, Saito M, Kondo N. Measuring functional ability in Healthy Ageing: testing its validity using Japanese nationwide longitudinal data. Age Ageing. 2024 Jan 2;53(1):afad224. doi: 10.1093/ageing/afad224. PMID: 38275093; PMCID: PMC10811647.
URL: Measuring functional ability in Healthy Ageing: testing its validity using Japanese nationwide longitudinal data – PubMed (nih.gov)

論文出版:高齢者、女性、火災事故、自然災害、交通事故、加害、自傷、病院の問い合わせ回数が4回以上、コロナ禍時の軽症の救急搬送患者では、 救急隊が救急現場で30分以上の活動を要した(助教 上野恵子)

救急車が救急現場で長く活動時間を要することは、世界的にも救急医療体制上の大きな問題となっています。上野恵子助教は広島大学との共同研究で、広島県東広島市消防本部の救急搬送・救急要請データベース7年間のデータを利用し、軽症(医療機関を受診後帰宅可能)の救急搬送患者において、高齢者、女性、火災事故、自然災害、交通事故、加害、自傷、病院の問い合わせ回数が4回以上、コロナ禍時の患者では救急隊が救急現場で30分以上の活動を要したことを明らかにしました。地域の救急医療体制を改善するためには、救急隊員のパフォーマンス、連携組織(警察、消防)の存在、病院の患者受け入れ体制、救急病院と精神病院との連携など介入可能と考えられる要因に対してどのように対処するか再考する必要があります。

書籍情報:Ueno, K., Teramoto, C., Nishioka, D. et al. Factors associated with prolonged on-scene time in ambulance transportation among patients with minor diseases or injuries in Japan: a population-based observational study. BMC Emerg Med 24, 10 (2024).

リンク:https://doi.org/10.1186/s12873-023-00927-2

論文出版:循環器病に関連する健康の社会的決定要因 (SDOH) 評価ツールのレビュー

循環器病に関連する健康の社会的決定要因(SDOH:Social Determinant of Health)のスクリーニング/アセスメントツールに関する総説論文を発表しました。
聖路加国際病院循環器内科、聖路加国際大学学術情報部のメンバーとの共同研究の成果です。

本論文では、既報の循環器病に関連する SDOH の評価ツールがどのように展開されているのか、また、SDOH の各項目の循環器病の転帰との関連性を明らかにしています。
本研究成果は、2023 年 12 月 11 日に、一般社団法人日本循環器学会が発行する国際学術誌「Circulation Journal」に掲載されました。
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【書誌情報】
雑誌名:Circulation Journal
タイトル:Scoping Review of Screening and Assessment Tools for Social Determinants of Health in the
Field of Cardiovascular Disease
DOI: 10.1253/circj.CJ-23-0443
URL: https://doi.org/10.1253/circj.CJ-23-0443

論文出版:地域のジェンダー規範が保守的と感じる人は、うつ症状・自殺念慮・自殺未遂歴が約2倍多い(共同研究者 金森)

京都大学人と社会の未来研究院 金森万里子と当研究室近藤尚己教授らの研究グループは、「男/女のくせに、●●してはいけない/しなさい」といった、地域のジェンダー規範の認知が高齢者のメンタルヘルスにどのような影響を及ぼすか明らかにしました。

住んでいる地域のジェンダー規範が保守的だと感じている男性では、1.9倍うつ症状を抱く人が多く、2.0倍自殺念慮(死にたい気持ち)を抱いており、2.2倍自殺未遂歴がありました。女性でも同様に、うつ症状が1.8倍、自殺念慮が2.1倍、自殺未遂歴が2.6倍多い結果でした。

地域社会において、男らしさや女らしさの多様性を認めない雰囲気を感じている人は、困ったときに助けを求めたくても求められず、その結果メンタルヘルスに悪影響を及ぼしている可能性が示唆されました。

本研究成果は、老年学および心理学分野のトップジャーナルである国際学術誌「International Psychogeriatrics」にて、2023年11月6日にオンライン早期公開されました。

 

論文:Mariko Kanamori, Andrew Stickley, Kosuke Takemura, Yumiko Kobayashi, Mayumi Oka, Toshiyuki Ojima, Katsunori Kondo, Naoki Kondo. Community gender norms, mental health and suicide ideation and attempts among older Japanese adults: a cross-sectional study. International Psychogeriatrics, 1-11.

 

DOI: https://doi.org/10.1017/S104161022300087X

 

プレスリリースは以下のリンクからご覧ください。

https://www.jages.net/library/pressrelease/?action=cabinet_action_main_download&block_id=5028&room_id=549&cabinet_id=304&file_id=14087&upload_id=18589

 

論文出版:妊娠中・産後にオンライン健康医療相談が利用できることで産後うつリスクが3分の2に低下(博士課程 荒川)

荒川裕貴 東京大学博士課程学生(京都大学特別研究学生)と近藤尚己教授らの研究チームが、オンライン健康医療相談サービスによる産後うつ予防の研究論文を発表しました。

本研究は横浜市在住の妊婦を対象に実施され、スマートフォンを用いて子育て中の不安や疑問を産婦人科医・小児科医・助産師に相談できる、オンライン健康医療相談サービスを無料で利用できる環境にあった女性は、そうでない女性に比べて産後うつのリスクが約3分の2程度に抑えられたことが明らかになりました。この結果は、ヘルスケアへの物理的・心理的なアクセス障壁を取り除くことが、産前産後の女性のメンタルヘルスの向上に重要である可能性を示しています。

本研究成果は、BMCシリーズのフラグシップジャーナルである「BMC Medicine」に掲載されました。

プレスリリース:妊娠中・産後にオンライン健康医療相談が利用できることで産後うつリスクが3分の2に低下 | 京都大学 (kyoto-u.ac.jp)

書誌情報:Arakawa, Y, Haseda M, Inoue, K, et al. Effectiveness of mHealth consultation services for preventing postpartum depressive symptoms: a randomized clinical trial. BMC Medicine 21, 221(2023).

DOI: https://doi.org/10.1186/s12916-023-02918-3

論文出版:高齢生活保護受給者の歯科受診率は受給していない者よりも20%以上低い―歯科受診には経済的要因以外の障壁か―(東京医科歯科大学 講師:木野)

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野の木野志保講師と相田潤教授の研究グループは、京都大学、大阪医科薬科大学との共同研究で、生活保護受給者は治療および予防のための歯科受診率が受給していない者に比べて低いことを明らかにしました。本研究結果から、生活保護受給者が歯科受診する際には経済的要因以外の障壁が存在する可能性が示唆されました。本研究成果は、国際科学誌Community Dentistry and Oral Epidemiologyにて、2023年8月9日にオンライン版で発表されています。

書誌情報:Kino S, Ueno K, Nishioka D, Kondo N, Aida J. Prevalence of dental visits in older Japanese adults receiving public assistance. Community Dent Oral Epidemiol. 2023 Aug 9.
(東京医科歯科大学プレスリリースリンク)

論文出版:妊娠の意思があった既婚女性の約20%がコロナ禍に妊娠を延期、ウェルビーイングの低下と強い関連(筑波大学准教授:松島)

筑波大学松島みどり准教授と当研究室近藤尚己教授らの研究グループの論文が、BMC Public Healthにアクセプトされました。本論文は、日本におけるCOVID-19パンデミックと妊娠先延ばし、そのような選択をした女性とウェルビーイングの低下との関連を明らかにしました。

その結果、妊娠意向を持っていた18歳から50歳の既婚女性768人の約20%が、コロナ禍により妊娠を延期していました。さらに、妊娠延期の決定と、重度の心理的苦痛やコロナ禍以降に発生した孤独感、自殺念慮が強く関連していることが分かりました。このことは、コロナ禍のような危機時における社会の対応によって女性のウェルビーイングの低下への懸念を示すものであり、社会全体として何らかの精神的ケアの仕組みを整える必要があると考えられます。

論文: Matsushima, M., Yamada, H., Kondo, N. et al. Married women’s decision to delay childbearing, and loneliness, severe psychological distress, and suicidal ideation under crisis: online survey data analysis from 2020 to 2021. BMC Public Health 23, 1642 (2023).

DOI:  10.1186/s12889-023-16476-z

プレスリリース(リンク先は筑波大学HP): p20230920140000.pdf (tsukuba.ac.jp)

論文出版:生活保護受給者へのテーラーメイドな健康づくり支援に向けた新手法を開発(助教 上野)

健康は生活の礎です。そのため、生活保護の受給者など、福祉的支援を受けている方の健康を守ることは特に重要です。日本では、令和3年より生活保護受給者向けの「被保護者健康管理支援事業」の実施が福祉事務所へと義務化されました。そのような健康づくり支援を効率的かつ効果的に行うために、この度、マーケティングの手法を応用した新しいテーラーメイドな支援手法を開発しました。

 マーケティングでは、サービスの対象者をその特性により分類(セグメンテーション)し、優先すべき対象者を特定して、その特徴に合わせたサービスをデザインします。これを応用して、今回、65歳以上の生活保護受給者の属性情報データを用いて、ソフトクラスタリングという機械学習の手法により、5つの特徴的なセグメントを抽出しました。次いで、福祉事務所のケースワーカーへのインタビュー調査により、抽出したセグメントが実在する生活保護受給者とどの程度類似しているかを検討しました。その結果、複数のセグメントが、ケースワーカーが実在すると感じられるものでした。また、ケースワーカーが今まであまり意識しなかった特徴を持つセグメントも抽出できました。

 この結果に基づき、現在各セグメントに適した支援プランの提示を行うテーラーメイド型の健康づくり支援システムの開発を進めています。

本研究成果は、「International Journal for Equity in Health」に掲載されました。

論文: Ueno, K., Nishioka, D., Saito, J. et al. Identifying meaningful subpopulation segments among older public assistance recipients: a mixed methods study to develop tailor-made health and welfare interventions. Int J Equity Health 22, 146 (2023).

https://doi.org/10.1186/s12939-023-01959-7

論文出版:コロナ禍で5歳児に約4か月の発達の遅れ(助教 佐藤)

助教の佐藤は、コロナ禍と乳幼児の発達に関する論文を発表しました。

分析の結果、5歳時点でコロナ禍を経験した群は、そうでない群と比べて平均4.39か月の発達の遅れが確認されました。一方、3歳時点では明確な発達の遅れはみられず、むしろ発達が進んでいる領域もありました。また、コロナ禍で、3歳、5歳ともに発達の個人差・施設差が拡大していることも明らかになりました。

本研究は、米国医学会が刊行する小児科分野のトップジャーナルである「JAMA Pediatrics」に掲載されました。

論文:Sato, K., Fukai, T., Fujisawa, K. K., Nakamuro, M. Association Between the COVID-19 Pandemic and Early Childhood Development. JAMA Pediatrics. 2023 July 10.

DOI: 10.1001/jamapediatrics.2023.2096.
プレスリリースは、以下のリンクからご覧ください。

また、本研究結果は、様々なメディアに取り上げられました。

ほか多数

受賞:日本内分泌学会若手研究奨励賞(YIA)(特定准教授 井上)

特定准教授の井上が第96回日本内分泌学会学術総会にて若手研究奨励賞(Young Investigator Award)を受賞しました。同会は2023年6月1日から3日に名古屋で開催されました。

受賞演題は井上らが提唱する 「高ベネフィット・アプローチ」の有用性を、高血圧の治療に関して実証したものです。最先端の機械学習モデルを応用することで、次世代の個別化医療戦略を提唱するものです。

疫学分野での本賞受賞は非常に珍しく、本研究成果を基盤とした疫学と臨床医療の領域架橋が一層進展することが期待されます。

論文情報:

Kosuke Inoue, Susan Athey, Yusuke Tsugawa (2023). Machine-learning-based high-benefit approach versus conventional high-risk approach in blood pressure management. International Journal of Epidemiology.

DOI: https://doi.org/10.1093/ije/dyad037