論文出版:仮設住宅への転居でうつリスク3.8倍、ただし転居に際してグループ活動への関わり方が変化した人はそのうつリスクが4割減(客員研究員 松岡)

千葉大学予防医学センター 松岡洋子と当研究室近藤尚己教授らの研究グループは、2016年熊本地震で被災した高齢者を対象に、震災後の転居が精神的健康に与える効果と、その効果を説明する要因について分析を行いました。

震災後の転居は精神的健康悪化のリスク要因とされていますが、メカニズムについては明らかにされていません。そこで、住宅形態別に転居が精神的健康に与える効果と、その効果はどのような要因で説明されるかについて分析を行いました。震災前の2013年度調査に参加し、2016年4月熊本地震の被災地となった熊本県御船町で、7ヶ月後の2016年調査に参加した65歳以上の高齢者828名を対象としました。グループ活動への参加状況に注目したところ、震災前後で変化がなかった人は仮設住宅への転居によるうつリスクが3.8倍でしたが、そのリスクがグループ参加に変化があった人では4割軽減されていました。熊本地震後、仮設住宅では過去の大震災の教訓を踏まえた集団転居政策や集会所の近接設置、支え合いセンターによる訪問活動などが展開されていました。そこでは住民が従来のグループ活動への関わり方を変化させ、つながりを最適化できたことで、転居ストレスの軽減につながった可能性が示唆されました。

本研究成果は、「BMC Public Health」にて、2023年10月11日にオンライン公開されました。

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【論文情報】

Yoko Matsuoka, Maho Haseda, Mariko Kanamori, Koryu Sato, Airi Amemiya, Toshiyuki Ojima, Daisuke Takagi, Masamichi Hanazato & Naoki Kondo. Does disaster-related relocation impact mental health via changes in group participation among older adults? Causal mediation analysis of a pre-post disaster study of the 2016 Kumamoto earthquake. BMC Public Health 23, 1982 (2023).

DOI: https://doi.org/10.1186/s12889-023-16877-0

 

論文出版:国連が提唱する、健やかに年を重ねるための「機能的能力」の評価指標を開発・妥当性を確認(博士課程 西尾)

博士課程の西尾は、国際連合が提唱するヘルシーエイジングの概念の妥当性に関する論文を発表しました。

国際連合は、2021年〜2030年の10年間を「Decade of Healthy Ageing(ヘルシーエイジングの10年間)」に設定し、Healthy Ageingの進展を示す指標としてFunctional Ability(機能的能力:個人の身体的・精神的能力とそれを活かすことができる環境の組み合わせ)のモニタリングを各国に促しています。しかし、Functional Abilityの測定方法や、その概念的妥当性はほとんど検討されておらず、モニタリングの実施は困難でした。
本研究は、日本に住む65歳以上の高齢者約35,000人のデータを用いて、Functional Abilityの測定方法を開発し、その概念の妥当性を検討しました。
本研究結果は、日本の高齢者のデータによってFunctional Abilityの概念が裏付けられたことを示しています。Healthy Ageingの世界的な普及とモニタリングの推進のためには、他国のデータを用いてFunctional Abilityの概念を検証する更なる研究が必要とされています。
本研究は、Oxford University Pressが刊行する「Age and ageing」に掲載されました。
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【書誌情報】
Nishio M, Haseda M, Inoue K, Saito M, Kondo N. Measuring functional ability in Healthy Ageing: testing its validity using Japanese nationwide longitudinal data. Age Ageing. 2024 Jan 2;53(1):afad224. doi: 10.1093/ageing/afad224. PMID: 38275093; PMCID: PMC10811647.
URL: Measuring functional ability in Healthy Ageing: testing its validity using Japanese nationwide longitudinal data – PubMed (nih.gov)

論文出版:高齢生活保護受給者の歯科受診率は受給していない者よりも20%以上低い―歯科受診には経済的要因以外の障壁か―(東京医科歯科大学 講師:木野)

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野の木野志保講師と相田潤教授の研究グループは、京都大学、大阪医科薬科大学との共同研究で、生活保護受給者は治療および予防のための歯科受診率が受給していない者に比べて低いことを明らかにしました。本研究結果から、生活保護受給者が歯科受診する際には経済的要因以外の障壁が存在する可能性が示唆されました。本研究成果は、国際科学誌Community Dentistry and Oral Epidemiologyにて、2023年8月9日にオンライン版で発表されています。

書誌情報:Kino S, Ueno K, Nishioka D, Kondo N, Aida J. Prevalence of dental visits in older Japanese adults receiving public assistance. Community Dent Oral Epidemiol. 2023 Aug 9.
(東京医科歯科大学プレスリリースリンク)