健康の社会的決定要因「知の構造化」プロジェクト最終報告書が公開されました:http://www.iken.org/activity/commit/sdh/index.html

公益財団法人医療科学研究所が、2013年度健康の社会的決定要因「知の構造化」プロジェクトの最終報告書を公開しました。

プロジェクトメンバーとして、社会疫学のパートを担当しました。
今回は「ソーシャルキャピタル」について。社会科学や公衆衛生学、ビジネスの世界で注目されながら、それぞれ独自に発展してきたため混乱が見られるこの概念について、多面的にレビュー、分析したものです。ソーシャルキャピタル、という用語を用いて学術研究を行っている研究者や実務家の方々を対象としています。
社会学者、経済学者、政治哲学者、疫学者、公衆衛生学者が集まってまとめたものです。多様な分野から、著名な先生方と一緒に行った毎回の会議はとても刺激的で、視野が大変広がりました。

報告書URL:http://www.iken.org/activity/commit/sdh/index.html

東京大学法学政治学研究科の非常勤講師に委嘱されました。

担当している「社会と健康I」「社会と健康II]は公衆衛生の修士課程である公共健康医学専攻や健康科学看護学分野向けの講義でした。

健康づくりには、雇用や教育、地域づくりなど、多様な場面での対策が必要、ということを大きな首長としている講義です。

昨年1年講義を行い、保健関係の院生だけに講義するのはもったいないと思いました。内容の性格上、幅広く社会科学や応用学術分野全般に公開すべきと感じました。

そのようなわけで、このたび東京大学大学院公共政策大学院の課程履修科目に追加していただきました。

来年度は医師や看護師、保健師といった健康のプロだけでなく、政治や経済、社会学のキャリアをめざす大学院生たちを交えて活発な議論を行いたいと思います!

(参考)東京大学公共健康医学専攻(公衆衛生大学院) 25年度のシラバス: http://www.m.u-tokyo.ac.jp/sph/material/SPH2013.pdf

朝日新聞に掲載されました「交通の利便性、健康に影響も」

東日本大震災から3年目の3月、各報道機関は特集記事を汲みました。

岩手大学平井寛准教授らと進めてきた研究成果が3月7日付けの朝日新聞朝刊で特集記事になりました。

「(東日本大震災3年:5)医療 抱え込む健康リスク」とした特集記事の中で「交通の利便性、健康に影響も」と題して紹介されました。

被災地の多くはもともと過疎地であったところ、山間地への避難者の増加に伴い、交通事情の悪い中で生活している高齢者が増加しています。陸前高田市が実施してきた「健康生活調査」のデータを用いて、各高齢者の居住地から最寄りの食料品小売店や買い物バス停留所、移動販売までの道路上距離を地理情報技術を用いて計算しました。その結果、距離が長くなるほど外出頻度が減って「閉じこもり」となっている可能性が高いことがわかり、特に80メートルを超えると顕著となりました。

オンライン版では文章のみ閲覧可能です。新聞掲載版では地図やグラフで詳しく結果が紹介されています。

朝日特集記事イメージ

シミュレーション技術で社会と健康の関係を探る(会議参加しました)

米国ミシガン大学や国立衛生研究所(NIH)が主催して行われた研究会議に参加してきました。

社会と健康の関係は複雑です。これをコンピュータを使ったシミュレーションで理解しようとする動きが始まっています。医学が、コンピュータ科学や数学と手を組んで新たなイノベーションを生み出そうとしています。

http://conferences.thehillgroup.com/UMich/complexity-disparities-populationhealth/

明日、市民シンポジウムです!

「社会階層と健康」研究班5年間のまとめのシンポジウムを開催します。

http://mental.m.u-tokyo.ac.jp/sdh/pdf/pubsympposter140212.pdf

発表抄録より:

タイトル:日本人の健康状態の推移:これからの健康づくりにむけて
講演者名: 近藤尚己
講演者所属: 東京大学大学院医学系研究科保健社会行動学分野

日本が敗戦から驚くべきスピードで世界一の長寿国となった理由は何だろうか。たとえば、「お互い様」といった助け合いの規範が生きていることが、日本の長寿の達成に貢献してきた様々な制度や地域での取り組みに反映されてきた結果ではないかと考えられている。たとえば多くの先進諸国に先んじて国民皆保険制度・国民皆年金制度を創設したことや、貧しい農村での自主的な保健活動の事例である。また、社会格差は健康に悪影響を与える可能性があることを示す多くの実証研究があるが、多様な側面における格差の小ささも日本の特徴であった。しかし近年では、特に男性の平均寿命の伸び悩みが目立ち、それと関係するように職業階層間の健康格差の“いびつな”拡大がみられている。実は健康格差の拡大が世界的な傾向とし日本以上に充実した社会保障制度を持つ北欧諸国でも健康格差は継続的に拡大している。これらは、カネやモノの再分配政策だけでは「心の」健康状態や健康「行動」の格差までは是正できず、新たな一手を考案する必要があることを示唆している。だれもが安心して暮らせる社会システムの追及に加え、力強く、かつ“安全”に、人々の行動を、より健康な方向に促すような社会デザインが必要かもしれない。

人のつながりと健康

家族・親戚・ご近所・職場・友人・学校の先生・・・ときどき「煩わしいな」と思うこともある「人間関係」。でも、これ無しには私たちヒトは生きることができません。人類は、助け合い、分かち合いながら進化してきた動物です。あなたを取り巻く人間のつながりのことを「社会的ネットワーク」と言います。社会的ネットワークが豊かな人(より多くの人と頻繁に交流する人)ほど、所得や性別、住んでいる地域に関わらず長生きすることが、大規模な追跡疫学調査によりわかっています。

なぜ人とのつながりが体によいのでしょうか?

理由その1つながりから「支援」が得られる

まず、人とつながっていることで、困ったときに支援を得ることができますネットワークを通じた具体的な助け合いを「社会サポート」と呼びます。社会サポートには、以下の様な者があり、いずれのサポートでも、適度なサポートを受けている人のほうがその後病気になりにくく、長生きしていることを証明した研究がたくさん報告されています。

1. 困ったときの手助け:手段的サポート
足を怪我して買い物に行けない、風邪ひどくなって病院に行きたい・・・こんなときは、代わりに買い物に行ってくれたり、病院に連れて行ってくれたりする人が必要ですね。反対にこのようなサポートが得られなければ、怪我がよくなるまでの間あり合わせのかん詰などで食事を済ませてしまったり、受診が遅れてかぜをこじらせてしまったりするかもしれません。

2. つらいとき、悲しいときの寄り添い:情緒サポート
親友とけんかしたり、災害に遭ってうちひしがれてしまったり・・・つらいときに、一人悩み続けるほど苦しいことはありません。寄り添ってくれたり、話を聞いてくれたり、励ましてくれる人が必要です。このように情緒・心の面でのサポートを「情緒サポート」といいます。

3. 役立つ情報のやりとり:情報サポート

からだの調子が悪かったり、健康のことで気になることがあるとき、知り合いに信頼できる、詳しい人がいてくれると助かりますね。有用な情報をくれるからです。健康維持づくりに役立つ情報をくれる人がいる人のほうが、健康な生活習慣を送りやすいでしょう。

理由その2つながりが豊かな地域や社会から得られる恩恵

顔の見えるような付き合いや活動がたくさんあるような地域には、助け合うためのルール(互酬性の規範)や人々同士の信頼関係が豊かに作られていることがあります。そのような地域に住んでいると、個々人の人間関係の豊かさとは無関係に、地域から様々な恩恵を受けることで健康な生活を送ることができます。

たとえば、そのような地域では、未成年が喫煙や飲酒をしようとするのはしっかり注意してくれる大人が多いかもしれません。また、皆で防犯活動を行うことで治安が保たれ、夜もあんぜんのにジョギングや散歩ができ、そのために運動習慣を維持できる人が増える化もしれません。決めごとがスムーズになることで、地域や社会の財源(税金など)を有効に使用することができます。地域の祭りを通じた世代間の交流が増えて、社会サポートを受けられる機会が増える化もしれません。

このような、社会の結束をはぐくむような仕組みや地域の資源のことを「ソーシャル・キャピタル」といいます。ソーシャル・キャピタルが高い地域に住んでいると、その環境から様々な恩恵が得られます。たとえば、あまり社交的でない人でも、治安の良さの恩恵を受けられることで、健康にメリットがあります。

増刷決定!「健康の社会的決定要因 疾患・状態別「健康格差」レビュー」

近藤克則先生を編者としてまとめられた健康の社会的決定要因 疾患・状態別「健康格差」レビュー(日本公衆衛生協会)の増刷が決定しました。一部執筆させていただきました。

健康の社会的決定要因 疾患・状態別「健康格差」レビュー

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