博士課程学生の永田と助教の佐藤がリードした論文がPreventive Medicineに掲載されました。
社会疫学教室では、株式会社博報堂DYホールディングスとともに、メタボリックシンドロームの研究において、新たな職域健康づくりプログラム「健診戦」に参加した人は、参加しなかった人に比べて健康診断の結果が向上することを実証しました。
「健診戦」は、(株)博報堂DYホールディングスが開発した、コミットメント、インセンティブ、ゲーミフィケーションなど行動科学の要素を複数活用し、楽しめるよう工夫を取り入れた健康プログラムです。
分析の結果、健康プログラムに参加した人では、参加しなかった人に比べてメタボリックシンドロームに関連する検査値が改善したことがわかりました。また、特に特定健診(メタボリック症候群のスクリーニングのための検診)で健康リスクがあると判断された人のうち、「健診戦」に参加した人では検査値の改善幅が大きいことがわかりました。
本研究の結果から、行動科学の要素を組み込んだ健康づくりプログラムに参加することはメタボリックシンドロームの改善や職域での健康格差是正に繋がる可能性が示唆されました。
Nagata H., Sato K., Haseda M., Kobayashi Y., Kondo N. A novel behavioral science-based health checkup program and subsequent metabolic risk reductions in a workplace: Checkup championship. Preventive Medicine. 2022 Nov; 164:107271.
https://doi.org/10.1016/j.ypmed.2022.107271
概要
■本研究の背景
日本ではメタボリックシンドロームの対策に焦点を当てた特定健康診査(健診)が行われています。これまでの研究で特定健診・特定保健指導の効果は必ずしも明らかになっておらず、より効果的な保健プログラムの開発が必要とされていました。また管理職や一般職などの職位、雇用形態などは働く人の健康状態に関連し、職域での健康格差に繋がることが報告されています。そこで本研究は、(株)博報堂DYホールディングスが開発した、エンターテインメント性やゲーミフィケーション、コミットメント、インセンティブなど行動科学の要素を複数活用した健康づくりプログラム「健診戦」に注目し、プログラムに参加することがメタボリックシンドロームの改善に繋がるか、職域での健康格差是正に繋がるか検証しました。
■対象と方法
博報堂DYホールディングス、博報堂、博報堂DYメディアパートナーズで2019年に実施された、全従業員が任意で参加できる行動科学に基づくプログラム「健診戦」に参加した1509名と参加しなかった2188名の計3697名(男性2818名、女性879名、平均年齢40.7歳)の従業員を対象にプログラム参加の有無とメタボリックシンドローム関連指標改善の関連を分析しました。年齢、性別、職種、雇用形態、職位、プログラム開始前3ヶ月の総労働時間、睡眠時間、運動習慣、喫煙状況、飲酒習慣、行動変容段階の影響は傾向スコア逆確率重み付け(IPTW)を用いて調整しました。2018、2019年度の健診データを用いて差の差分析による統計学的な評価を行いました。
■結果
プログラムに参加した従業員では参加しなかった従業員に比べて体重(0.66 kg)、腹囲(0.67 cm)、BMI(0.23 kg/m2)、血圧(1.13 mmHg)が減少したと推定されました。特に特定保健指導対象者では体重(1.51kg)、腹囲(1.82cm)、BMI(0.5 kg/m2)、LDLコレステロール (5.64 mg/dL)がより大きく減少したと推定されました。また職位や年齢関係なくプログラムに参加した従業員では同じく検査値の減少がみられました。
■結論
職位や年齢関係なく、行動科学に基づくプログラム「健診戦」に参加した従業員は参加しなかった従業員に比べて、健診結果(体重、肥満、腹囲、血圧)の改善が見られました。特にメタボ健診で健康リスクがあるとされる特定保健指導対象者において効果的である可能性がわかりました。
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